A boy who wanted his own dryer ~乾燥機が欲しいと言った少年~

第二次世界大戦時真っ只中生まれ、戦後復興・高度成長期時代育ちの父親は、私が子供の頃からずっととにかく仕事一筋の人だった。父の世代の人たちは、皆似たような感じなのかもしれないが、どのような業界に属していようとも、今の時代よりも遥かに、人との関わり、いわゆるコネを作ることには人一倍気を遣い、休みはいつも返上で、とにかくいつも家にはいなかった。父にはどこからどこまでが仕事で、どこからが家庭なのかなどという境界線はなく、人生そのものが仕事のためにあり、またそれがある意味生きがいになっているような、そんな生活を送っていたと思う。父が私達家族を養い、どんなに経済状況が苦しかった時期でも家族を路頭に迷わせるようなことはしなかったことや、その背中で人生の厳しさを教えてくれたことには深く感謝しているし、その並々ならぬ責任感には大いに敬意を表したいが、もしも今13年前に他界した彼に会って話をする機会があるとしたら、彼とは面識のない私の夫や子供のこと以外に、私自身が彼と向き合って笑って語り合える父親の愛溢れるような思い出は殆どないことに気付き、きっと少々残念に思うだろう。

思うに、そんな親たちを見て育った人達の多くは、「報酬とは自分が労働した時間に対して支払われるものである」という固定観念を持っているかもしれない。つまり、長時間頑張って働いていれば、その努力が成果となり、報酬の対象になるという観念である。もしかしたらそういう人たちの根底には「長時間働くことに対する美学」のようなものが存在しているのかもしれない。

しかし実際は長い時間一つのことをやり続けることは、何かを学んだり達成する上で決して効率的ではない。人間には「経験を通して新しいことを学ぶ事」や「新しい知識を生かして新たに何かを作り出す事」ができるという、他の動物とは明らかに違う卓越した学習能力と応用能力がある。私はそういう能力を発揮し、人生に生かせている人達のことを「イノベイティブな人」とか「クリエイティブな人」という言葉で表現する。

 

今から15年ほど前、私は学校で日本語を選択科目としている地元の高校生たち数名に、個人的に日本語を教えていたことがある。その中の一人の中国人移民、15才のDくんとは意気投合し、いつもいろいろなことについて話す機会があった。まあ、実のところDくんは学校の教科書に沿った「〇〇試験対策」のような日本語の勉強が苦手で、いつもクラスが佳境に入ってくると、その屈託のない性格と話術で実にうまい具合に話をすり替えられてしまうのだった。そして日本語の授業と関係ない会話で盛り上がって、結局いつも最後は「じゃあ残りは宿題ね。」となってしまうというパターンだった。そもそもD君は他の言語を学ぶことにあまり興味がなく、学校で日本語を選択した理由も「中国語と意味が共通する日本語熟語の意味を覚える手間が省けるから」だった。私との日本語のクラスも、「試験対策は宿題で適当にするから、会話で役に立つ言い回しだけ教えて!」という感じで、そのあたりは実に合理的かつ現実的な考え方をするティーンネージャーだった。

ある日のレッスンで、「もし~・・たら」という構文について勉強する機会があった。初めはシンプルに「もし明日雨が降ったら・・・」などという例文を用いて練習していたのだが、そのうちにDくんから「もし~・・たら」を使った、私への質問コーナーへと展開していった。

 

「もし$5000持っていたら、あなたは何を買いますか?」

 

突然のDくんからの質問に、思わず頬杖をついて考えこんでしまった。その時私が何と答えたかはっきり覚えてはいないが、多分クルージング旅行に行くとかそういう回答をしたと思う。そして次は私が質問する番になり、もしDくんが$5000持っていたら、何を買いたいのか尋ねた。

“I will definitely buy a good industrial washing dryer. “

(僕なら絶対に質のいい業務用乾燥機を買うな。)

 

日本語のレッスンそっちのけのKiwi英語全開でそう言うと、Dくんはニヤリと笑った。15才男子からなら当然「お目当てのギターを買う」とか「安い中古車を買う」(当時NZでは15才から運転免許証が取れた。現在は16才から。)とか、「洋服やゲームを買う」とか、そんな答えが返ってくるのが相場だと思っていた私は、まさに意標を突かれた思いで目を丸くしてその理由を待った。


“My uncle recently started his own Laundromat business. I asked him if I could invest one Dryer there and get some return from it.  I’m actually saving up some money for buying my own dryer. Isn’t it cool? “

(最近僕のおじさんがコインランドリービジネスを始めたんだ。だから、一つ乾燥機を買わせてもらって、その乾燥機からの収益を貰えないかって頼んでるんだ。実はもうすぐそのお金が貯まるんだ。クールだと思わない?)

 

その若干15才の起業家はさらに続けた。

 

“Do you know why I’m getting just a dryer not any washing machines? Because everybody’s got washingmachine at home.  In NZ, People are more likely to come to a laundromat for using dryers.  I already have done observation for a week and recorded numbers regarding how many people are coming to the laundromat for using the dryears. Also a dryer uses only power. You don’t need to provide costomers with water and washing powder. ”

(僕がなんで乾燥機だけ買うかわかる?だって、皆洗濯機は持ってるんだよ。ニュージーランドではコインランドリーに来るお客さんの多くは、乾燥機を使いに来るんだよ。1週間毎日何人のお客さんが乾燥機を使いに来るかも既に自分で調べたんだ。それに、乾燥機は電気代だけで済むんだ。お客さんに無料で洗濯洗剤や水を提供する必要もないからね。)

 

好奇心をそそられた私はDくんに訊いてみた。”So, what are you planning with the money that you’re going to earn from your own dryer?” (で、君の乾燥機で儲けるお金で何をする予定なの?)

 

“Of course, I’ll buy another one!” 

(もちろん、もう一つ乾燥機を買うに決まってるじゃないか!)

 

この日私は、このイノベイティブでクリエイティブな15才のD少年からとても大切なことを学んだ。「報酬と労働時間は反比例させることができるものであり、それは自分のアイデアと企画次第で幾らでも実現可能である」という素晴らしい概念である。彼が考案した権利収入源の構築法は実にクラッシックかもしれないが、彼の視点からすれば、どれだけの報酬を手に入れるかはそれほど重要ではない。どのようにしてそれを得るかを考え、実行することが大切なのである。なぜなら、それによってその後の自分の生き方が大きく変わるからである。あれから15年。Dくんは今どこで何をしているのだろうか。彼が今大いに成功し、時間と経済の自由を手に入れていることを想像するには難くない。

 

「もし今Dくんに再会したらどうしますか?」

 

そう訊かれたら、私は迷わず投資してでも彼を私のビジネスパートナーにすると答えるだろう。

 

 

Washing Laundry Launderette Laundromat Washeteria

A boy who wanted his own dryer ~乾燥機が欲しいと言った少年~」への2件のフィードバック

  1. こういうテーマにとても興味あります、男女の考え方は違うと最近よくおもいます、そしてこの15歳でdrier欲しいという発言は男性らしい発言だなあ~と思いました。

    なんかいいブログですね!ひととの出会いは偶然じゃないと旅行し初めてから私も思うようになりました!出会ったひとが必ずなにかを教えてくれます。Preordainedってぴったり合う名前ですね♡

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    • コメントありがとうございます。確かにこういう考え方をするのは男性の方が多いかもしれないですね。私だったら乾燥機を観てマインドがビジネスには繋がらないと思います。こういう発想ができるのは思考が柔軟な証拠ですね。物事を観る時に、様々な角度から見つめ、先入観を取り払って周りの人の言葉にも耳を傾けてみる…そういう人たちとの出会いからはいつも素晴らしいことを学ぶことができますね。em8nasunoさんが私の発信するメッセージを感じ取ってくださってとても嬉しく思います。これからも旅先のみならず日常生活での小さな出会いも大切にしてくださいね。私もあなたとの出会いに感謝します。

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